カルテット1話の唐揚げのシーンが好きすぎたのでセリフを文字起こしした
句読点やリーダなど役物、またト書きなどを用いてなるべくニュアンスを再現するように努めた。
別:暖かいうちに食べましょう
家:あっ小皿(立ち上がろうとする)
巻:(制する)
家:(会釈)
家:えっ
す:おいしそ〜
別:ですよね〜
家:何何何何何何何
家:きみたち、何してるのですか
す:唐揚げ食べるのですが
家:(指して)これ。これ。
す:レモン…
家:うん。レモン。
別:はい。
家:今きみたち、何で唐揚げにレモンしたの?
す:「なんで」? 唐揚げはレモン…
家:人それぞれ。
す:ん?
家:人それぞれ。
別:ん?
す:ここにレモン…
家:それは、ここにさ。自分たちの皿に取り分けたのちに、こ、個々に、かけるために置いたんじゃないか。
す:じゃないか…
家:唐揚げにはレモンするよって人と、wwwレモンなんかしないよするわけないでしょwって人がいるじゃないか。
す:(ニヤニヤ)
別:…かけたほうがおいしいですよ?
家:まずカリカリ度が減るよね
別:かけたほうが健康にいいですし──
家:唐揚げ食べるって時点で健康のことは一旦脇においてあるじゃないか。
す:かけたほうがおいしいじゃないか〜
家:違う違う違うよ僕が言いたいのは──
す:レモンぐらいで怒らなくていいじゃないか〜
別:今後気をつけますから、レモンぐらいで。
巻:(小声)レモンぐらいってこと…
全:……え?
巻:あ、いえ
家:真紀さん今なんて?
巻:レモンぐらいってことはないと思うんですが
家:真紀さんレモンしない派ですか
巻:するしないというより、ごめんなさい、いま大事なのはそこじゃないと思うんですけど
別:…なんですか?
巻:…どうしてかける前に聞かなかったんですか?
家:それ! そのこと。
家:唐揚げにレモンかけたい人がいるのは当然ですダメって言ってるわけじゃないよ。
巻:レモンかけますか、なぜその一言がなかったのか、と家森さんは
家:そのこと。(大きく頷く)
家:別府くん唐揚げは洗える?
別:w洗えません
家:レモンするってことはさ、不可逆なんだよ
別:不可逆?
家:二度と、元には、戻れないの
別:…すいません。かけますか?って聞けばよかったんですね。
家・巻:(そういうこと言ってんじゃないんだよなぁ〜〜〜、という顔)
別:……違うんですか?
家:レモンするかどうか聞くっていう文化にはさ、
す:文化…
家:二つの流派があって、
別:…流派。
家:わかりますよね?
巻:わかります。
家:きみたちレモンかけるとき、聞くとしてなんて聞く?
別:…「レモンかけますか?」
家:「あ、はい」
家:…………こうなるでしょ。
家:「レモンかけますか?」「あ、はい」
家:かけるの当たり前みたいな空気生まれて、全然大丈夫じゃないのに「あ、大丈夫す」ってなるでしょ? これ脅迫ですよ? こっち防戦一方です
別:…どう言えばいいんですか
巻:…レモン、ありますね。
家:…レモン、ありますよ。
家:こう言うの。
す:ちょっと…意味がわからないじゃないか〜
家:きみ僕のことバカにしてる?
す:バwカwにwなwんwかwしてないじゃないかwww
家:なんかビオリストは器が小さいみたいな──
巻:家森さん。
家:はい。
巻:お気持ちはわかりますが、唐揚げを見てください
家:はい。
巻:冷え始めています
家:ごめんなさい、失礼しました、食べましょう
す:あ〜〜〜〜〜あ
全:いただきます
す:はぁ〜おいしそー
家:いや、申し訳ないです。
家:五年生のときもこういうことあって、僕が学級会の議題になっちゃって、
す:え、なんでですか?
家:きみには教えないよ
す:wwなんだろ〜w
家:僕のトラウマ想像しなくていいよ
別:......あっ、東北では〜、トマトに砂糖かけるって知ってます?
全:へ(え)ぇ〜〜〜〜!
気になった点
家:えっ
まずこれがすごい。疑問。呆れ。信じられない。それらのものを一言で示す「えっ」であった。だからといって「複雑な感情」などというのとは違う。そのように書くとあたかも複雑な感情の発露かのようにも聞こえるが、あれは日常でもよく耳にする「えっ」だ。われわれが普段使う言葉からして一つの感情だけではない、いくつもの想いが乗せられているのだ、ということを意識させられるような「えっ」であった。このようなものはあまりドラマでは聞いたことがない。高橋一生がこわい。
そういえば、同じ一話の後半で機嫌悪くなった別府くんに対する「大丈夫?」もそうだった。あれも「(今からの練習)大丈夫?」から「(これから先カルテットとしてやっていくのに)大丈夫?」までを含んでいた。あの台詞は本当によかった。演技とはここまでのことを表現できるのか。そう思った。
別:ですよね〜
こちらはそれとは逆になんの感情もない、ただ何も考えずに出た相槌だ。これも確かにわれわれも普段の生活でよくやる。こんな適当な相槌一つでも別府のキャラは立つ。こちらもあまりドラマでは聞いた覚えがない。
家:何何何何何何何
「何」としたが、「ねえ」とも取れる、二つの間のような声だ。台本にはなんと書いてあるのだろう。
家:これ。これ。
苛立ち始めている。伝わる。単語言い切りなので文字面の時点で苛立っていることはすでに表現できているはずだが、それが輪をかけて伝わるのは高橋一生の演技の賜物だ。
す:レモン...
この「レモン...」がなんともかわいい。まだ家森が何を言い出そうとしているのか理解していない声だ。不意をつかれて口をついて出た。ただ出た。そんなレモン。
家:人それぞれ。
ここに来て家森の口調が非難めいていることが(おそらく別府とすずめの2人から見ても)はっきりしてくる。この間じゅう家森がずっと「え?」みたいな顔しつづけているのが可笑しい。
家:こ、個々に、かけるために置いたんじゃないか。
噛んだ! やった! 最高! 俳優が噛むが、それが日常会話でもあるような全く自然な噛み方であるような演技を見るのが好きだ。たまらなく好きだ。いや、噛んだというよりは「ここ」と「個々」が偶然ダジャレになっちゃって一瞬言い澱んだ、というほうがあるいは正解に近いかもしれない。いずれにせよ、噛んだことを示す頬を叩く仕草はなくてもよかったと思う。なくても十分に自然だった。
家:wwwレモンなんかしないよするわけないでしょw
もはや言うには及ばない。ただ特にこの部分の演技が好きだということを示したかっただけだ。
家:まずカリカリ度が減るよね。
これは凡百のドラマだったら、「カリカリ度?」みたいな無駄な台詞が挟まっていたところだ。いやわかるやろと。「カリカリ度」やぞ? たとえ一度も聞いたことない言葉だったとしても文脈でわかるやろと。そう思うことが過去にドラマを見ていて何度もあった。そういう台詞をよく入れずにいてくれた。もう5話放映を終えているのでこれを言うのも今さらだが、カルテットというドラマは「ここ普通のドラマだったらこういうこと言っちゃう/やっちゃうだろうな...」ということをことごとく「やらないで」いてくれる。「カリカリ度」に対して「カリカリ度?」と言ってしまうことは視聴者の理解への助けなどではない。それは歩行補助具だ。すでに立って歩ける我々への歩行補助具はただの余計なおせっかいでしかない。
家:違う違う違うよ僕が言いたいのは──
いい。ジェスチャーがいい。
す:レモンぐらいで怒らなくていいじゃないか〜
「じゃないか〜」である。そしてあの手の動き。バカにしている。完全にバカにしている。拳から親指を下に突き出したら「くたばれ」。手のひらを上にして肩をすくめたら「わからない」。しかしあの動きは何だ。どれにも当てはめられない。当てはめられないが、バカにしていることははっきりと伝わる。素晴らしい。
別:今後気をつけますから、レモンぐらいで。
別府は事なかれ主義というかけっこうクズなところがある(もちろん、そこが愛おしい)。それは2話でさらにはっきりするのだが、こんなところにもちゃんとそのキャラは出ていたのだった。
それにしても、セリフとして「レモンぐらいで。」で切ったのも素晴らしい。「レモンぐらいで(怒らないでください)」というカッコ内の部分は役者の演技で十分表現できる。むしろ言葉としてそれを言ってしまうと「いや怒ってはないよ」と角が立ってしまうだろう。通常の会話としても「レモンぐらいで。」が最適解であるように思える。
巻:レモンぐらいってこと... 全:えっ?
3人全員の「えっ?」のタイミングがシンクロしているが、テレビの前の私も同じタイミングで思わず「えっ?」と発声してしまった。会話には「ここしかない」というタイミングの発話があるのだろう。あまり意識したことがなかった。
家:真紀さん今なんて?
まだ巻がどちらの立場なのか測りかねているような声だ。関係ないが家森は巻のこと下で呼んでそうだ。「自分のつもりとして」。
巻:するしないというより、ごめんなさい、いま大事なのはそこじゃないと思うんですけど
これがまたいい。「するしないというより」という全否定は結構角が立つ。そして実際雰囲気的に角が立っている。巻はこういう大胆なところがあるのだ。ベンジャミン事件が起きる以前から、巻の大胆さは会話の中に現れていたというわけだ。こういうキャラを見せておくことによってベンジャミン事件のときも「あぁ...巻さんならそういうことやりかねないよね...」という納得感が生まれる。
家:それ! そのこと。
思わず膝を打った。これはあるあるだ。怒っていた、非難してはいたけども何が問題なのか、どころか自分は何が問題だと思っているのかすらはっきり言語化できていなかった(だから周囲が「???」みたいな雰囲気になってた)。それが他人の言葉によってはっきりした。よくある。渡りに船だ。興奮してそれ! そのこと! こう言うほかないだろう。
さらにこの台詞が家森にとっては巻が自分の味方であることが明確になった瞬間でもあるのだ。そりゃあテーブルも叩く。
家:ダメって言ってるわけじゃないよ。
よい。もうキリがないな。
家:別府くん唐揚げは洗える?
ここの手振りもすき
別:w洗えません
このドラマは誰かの冗談で誰かがちゃんと笑う。普通冗談を言ったら愛想笑いだろうとなんだろうと笑うは笑う。それが人間関係というものだ。しかし多くのドラマは笑わない。ポカーンとする。呆れる。何言ってんだコイツ...みたいな雰囲気になる。すごく違和感があった。冗談を言ったら普通は笑う。3話のウルトラソウルも「やめてください」とか「何やってるんですか」とはならずにちゃんと笑う。当然だ。もしあれが現実の会話だったら当然笑う。
別:…すいません。かけますか?って聞けばよかったんですね。
別府の事なかれ主義が炸裂する。ていうか別府くんもうめんどくなってきてる。いやもうどうでもいいからはやく唐揚げ食べようよ。そんな心の声が聞こえる。
家・巻:(そういうこと言ってんじゃないんだよなぁ〜〜〜、という顔)
またこれがいい。はっきりと言っている。顔で。
別:...違うんですか?
このあと家森の唐揚げ文化論が始まるわけだが、その前に巻が何か言いかけている。ように見えなくもない。いずれにせよ、巻の性格だったら話を譲るだろう。「何か言いかけたが家森が話し始めたのでやめた」、これは巻の行動としては非常に納得できる。
昔劇団四季の舞台を写した写真を見て度肝を抜かれたことがある。映像ではない。写真だ。その写真では、舞台の隅から隅、後方のあまり照明すら当たらない一角にいるキャストまで全員がまるで主役であるかのような顔をして写っていた。一人ひとりに与えられた役があり、役一つ一つにその役なりの人生があるのだ。セリフを喋っていない人物も注目して見ていると、新たな発見があるかもしれない。
別:...「レモンかけますか?」
「レモン」のところではまだ考えを巡らせていて、「かけますか」のところでは「まぁ当然こう言うしかないよな」という顔をしている。表情の機微の移り変わりが手に取るようにわかる。個人的にはそういうところに気持ちよさを感じる。
す:バwカwにwなwんwかwしてないじゃないかwww
笑いながらのセリフを言わせたら満島ひかりの右に出るものはいないんじゃないかという気すらしてくる。
す:え、なんでですか? 家:きみには教えないよ
もちろん演技もいいが、むしろ感動したのはこの後だ。この場面では一瞬険悪な雰囲気になっているかのように見える。しかし次のシーン(すずめが巻に根掘り葉掘り聞くシーン。このシーンは松たか子の演技が最高に良かった。「平熱高いと、ここからね、ちょっといい匂いがするんです」。あの顔は本当に夫のことを好きでないとできない顔だと思った)では、家森とすずめが普通に会話している。このシーンは本当に感動させられた。険悪なムード(と言っても、半分冗談だからそこまで「険悪」というわけでもないが)を引きずっていないのだ。ほかのドラマであったらこうはいかない。誰かと誰かが険悪になったら、それが解消されるのは「仲直りエピソード」が挿入されてからだ。仲悪くなるにも仲良くなるにも理由が必要だ。そうでないと視聴者は納得しない、と作る方は思いがちなのかもしれないが、カルテットを見てわかった。別にそんなことはない。現実の人間関係では理由のある関係性が発生することは少ない。なんとなく好きになって、なんとなく嫌いになる。「きみには教えないよ」、すわ険悪、からの、笑顔で会話。リアリティをかなりの重みで評価軸に置く人間としては、このシーンは嬉しかった。
おわりに
このドラマのストーリーのよさについては、今さら語る必要はないだろう。だがあまりにストーリーが面白く、そちらのことばかり語られがちなので演技、そしてセリフ回しに絞って語ってみた。語りたかった。ふだん読む人のことを第一に考え、とにかくわかりやすさを希求する数学ブログを書いているので、自分が書きたいものを書きたいように書きたいだけ書くブログ始めました。よろしくお願いします。