迫りくる犬

犬が迫りくる

けものフレンズOP『ようこそジャパリパークへ』コード進行とメロディと感想

実際にOPに使われている1:30の部分のみ採譜した。

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感想とか

1小節目「ようこそ」

まずA7(Ⅲ7)で心をぐっと掴まれる。なにせⅢ7である。ぐっとこないわけがない。しかも日本人大好き Ⅰ→Ⅲ7→Ⅵm→Ⅰ7という王道進行だ。この進行が使われているヒット曲は『TSUNAMI』(サザンオールスターズ)、『リンダリンダ』(THE BLUE HEARTS)など枚挙に暇がない。

さらに言えばⅢ7は解決先がマイナーなのでちょっとだけ暗さというか、影がよぎる。底抜けの明るさだけではないけものフレンズの雰囲気に全くマッチしていると思う。

最近はそうでもないが、この曲が公開された当初に出た「耳コピしてみた」「弾いてみた」ではここが聞き取れず、Amなどになっているものが多かった。なんでだよ!! ここがいいのに!! 信じられん!!! …しかし逆に言えば、あまり聞き取られなかったことはそれだけこのA7がことさらに強調されたりせずにそっと置いてあるということの証左でもあるのだろう。作曲者の大石氏のセンスと優しさを感じる。

3小節目「ドッタンバッタン

B♭→F/AではA7の盛り上がり感とは反対に下降音程による落ち着き感が得られる。小節にわたって保たれるfの音が心地よい。

9小節目「たからかに」

まさかの同主転調である。ずいぶん思い切ったものだ。とは言ってもここのオケは三度音のないパワーコード、メロディだけがa♭を鳴らしているという状況なのでまだそこまでマイナー感はない。次もパワーコード。しかしonE♭。おや…? 予感がしてくる。次はD♭7だ。これはもう間違いない! そして訪れるC7(#9)。きたあああああああ!!よっしゃああああああ!!マイナーだああああ!!! というように、だんだんとマイナー感がはっきりしてくる仕掛けになっている。そりゃそうだ。Aメロ始まったらいきなりマイナー、というのはいかにも唐突すぎる。少しずつ変化していってこそのオシャレ感だ。

しかし11小節目の「フレンズ〜」まで到達するとここはFmというよりN.C.とでも言うべき単音となる。マイナー感は保留され、「え!? 何だったの今の!? マイナーだったの!?」という宙ぶらりんな不安定感が生まれる。そしてそれはもう一度同じフレーズが繰り返されることによって解決する。みごとな「緊張、緩和」である。

しかし、こういうワイワイ楽しい!みたいなアニソンに於いて7(#9)といえば思い出すのはやはり這いよれ!ニャル子さんOP『太陽曰く燃えよカオス』だろう。こっちはⅤ、むこうはⅠ(Ⅲ♭も)と使われ方は違うが、どちらもメジャーとマイナーとの橋渡し的な役割として7(#9)が効果的に使われている。むこうはトニックでいきなりメジャーとマイナーの三度音が共存するⅠ7(#9)を鳴らしてブルージーな中間的モード感を醸し、こっちはドミナントでしかも目立つ最高音であるe♭→eを歪んだギターが掻き鳴らしてゴリゴリのマイナー感を演出する。ニャル子のときはこの曲調でマイナー!?とその目新しさに感激したものだが、あのときの先鞭があってこそのけものフレンズなのかもしれない。

10小節目「わらいわらえば」

ブルーノートだ。ジャジー! なんだろう。サバンナの熱さからくる気だるさの表現だろうか。

13小節目「すっちゃかめっちゃか」

初めてシンコペでなく16分音符が登場し、ちょっと倍テンになった感がしていかにもすっちゃかめっちゃかだ。

ここ歌ってるのはフェネックちゃんなのかな。こういうジト目っぽい声いいよね。

17小節目「けものはいても」

鍵盤(でもなんでも)を下から順にシ、レ、ファ、ラと押してみてほしい。Fキーの脳でそれを聴くと、なんとも優しい感じがしてこないだろうか。夕焼けのようなというか、母のようなというか。包み込むような優しさ。それがB∅(ハーフディミニッシュと読む。Bm7-5とも書く)だ。次の18小節目「のけものはいない」ではB♭m6。これがまた輪をかけて優しい。構成音だけ見るとB♭m6はG∅と同じだ。∅というやつはそういうやつなのだ。

サブドミナントマイナーというものはジョンレノンにとっては「異国の鳥のよう」に聴こえたらしいが、私にとっては違ってそれは母の愛のような優しさに聴こえる。Bメロは全体的に「優しい」のだ。はたして次の19小節目ではSM→Tの解決からくる安心感に加えて歌詞に「本当の愛」が出てくる。20小節目がD7でなくF#dimなのはD7だと解決への求心力がありすぎて雰囲気として強すぎるからだろう。だからF#dimにして少しぼやかしたのではないか。優しさのために。このあとにもF#dimはもっかい出てくるので単に大石氏がF#dim好きという可能性もある。

26小節目「ようこそ」

イントロ直後のサビと違うこととして、「ようこそ」に三度上のハモリがついている。メインがソーファソだからシ♭ーラシ♭。A7に対してのシ♭だから♭9だ。ルートと♭9が構成する短九度の響きのよさはいまさら言うまでもないだろう。よい。またそれがA7という同主短調からの借用和音内で使われるとより一層影というか、暗さというか、寂しさがよぎる。

34小節目「(ひかれあう)の」

ここすき。本当にすき。ぶっちゃけ初聴のときちょっと泣いた。それぐらいすき。この曲でもっとも特筆すべきはこの部分であることに異論はないだろう。

そしてやはりサブドミナントマイナーである。この曲には何度もサブドミマイナーが出てくる。さっきはスルーしたが、サビ前の23小節目「てをつないで」にも。そしてここも。

さっき(18小節目「のけものはいない」)のときのメロディには幹音しかなく、スマートな音運びだったが、今度はメロディにもガッツリ派生音が出てきてサブドミマイナー感を強調する。

36小節目「ゆびをそっと」

この曲のクライマックスである。三連符!!!!

三連符ってなんでこんなにグッと来るんだろうか。ここに関してはもうなんか何がどうだからいいとかそういうアレではない感じがする。とにかく三連符とベルの16分の折り重なりがいい。いい......。

37小節目「かさねたら」

ここもその辺の耳コピなんかではよくD7とか書かれている。ベースがf# a f# e♭ f# a f# e♭って動いていると思うんだけど。

41小節目「しりたいな」

B♭m6/C。B♭m6の「優しさ」を保ったままベースだけⅤにして解決への求心力を高めている。なにもでたらめにベースだけⅤにしているわけではなく、ここはオンコードでないように書くとC7sus4(♭9)となる。これは普通にアリな和音だ。サブドミマイナー感を保ったままドミナントにしたいときの常套手段と言えるだろう。

53小節目「ラー」

Fm。Fキーの中でFm。さっきの同主転調とはわけが違う。トニックマイナーだ。なんとなくサブドミマイナー感がするのは、五度上の調に対するサブドミマイナーと捉えられるからだろうか。このFmがなんともおしゃれだ。

小節内にaがあるが、これは次のコードGm7のb♭に半音上行して向かう後部倚音として捉えることができるだろう(だから、Fm内に存在しうる)。

ここは何も考えず耳コピしているとDm7になる。単純な王道進行4536にしてしまうのだ。手癖で。せっかくのa♭が可哀想だ。

55小節目「(ジャパリ)パーク」

どう聴いてもメロディがレなので最初は戸惑った。ここも手癖でやっているとドにしてしまう。「welcome to the ジャパリパーク」を「シーファーミファミーレドラドー」と歌ってみてほしいが、むしろドの方が自然なのだ。しかしレ。なんだろうと思った。そのレがなんともジャジーでおしゃれなのだ。Fだから当然6か? と思ったが違った。e♭も鳴っているのだ!! ここはF7(13)だった! 甘〜〜〜〜〜〜〜い!!!

別にちゃんとした音楽用語とかではなくて個人的に便利だから使っている言葉があって、ナチュラルテンションとか、メジャーに解決するセカドミとかの響きを「甘い」、逆にオルタードテンションとか、マイナーに解決するような響きを「辛い」ということがある。それでいうとⅠ7(13)は甘々だ。下から順にファ、ミ♭、ラ、レとでも押してみてほしい。アメリカのカップケーキのような激烈な甘さが実感いただけるだろう。最後の最後にこんな甘々要素をぶっこんできやがった。ジャパリパークは恐ろしいところだ。

おわりに

ようこそジャパリパークへ』自体への評価はかなり高い。耳コピ、弾いてみた動画の多さもそれを裏付けているし、星野源が「1日60回聴いてる」と発言したみたいな話題もある。全く最もだと思う。「なんとなくいい曲だなぁ〜」と思ってた人も多いかもしれないが、こんなふうにその「よさ」に理由を見出すのもたまには悪くないと思う。